珈琲づくり


実家から持って来た、物心ついた頃から親父が使っていたコーヒーミルをリストアした。完全分解して、歯車にヤニの様についていた珈琲のカス等を洗浄してやり、十分に乾かしてから組み立てた。

まだ、豆には詳しくないけど、とりあえずコクのあるブレンドを買って来てみた。ロースターが無いのでフライパンで煎ってみたら、部屋中が珈琲のいいにおいで充満。そして、そのまだ熱いままの豆を挽く。
「ゴリゴリゴリゴリ」と「キー、キー、キー」のハーモニー。軸が歪んでいるのか、一定のリズムで高周波の音が出る。時間を見つけて治してやろう。

子供の頃、日曜日の朝はこの豆を挽く音で起こされた。嫌いな音だった。

20年経った今、この音に道具への愛着を感じている自分がいる。親父と全く同じ動作で、飛び出した豆を入れてあげたり、歯車に入らなかった豆を爪で弾いたり、粉を集めている。当時は嫌いな動作だった。

嫌いだった動作に今は親しみを感じ、嫌いだった親父の気持ちが少しはわかった様な気がする。


嫁さんと甘いケーキと共に、胃袋に流し込む。

「どうやらワシは、自分が手を入れられる余地のある道具にしか興味を示せないようだよ。靴といい、車といい。」と言ったら、嫁さんに「何、今頃気づいたの?」と返された。

刻を越えて蘇った道具で入れた珈琲は、けっしてコーヒーではなく、珈琲としか言えない味だった。親父が使っていたサイフォンはどこかに行ってしまったようだ。彼に合う伴侶を今度探しに行こう。

穏やかで美味しい時間、御馳走様。

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